起こりすぎた
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起こりすぎた
彼女はその静かな美しい目でじっとガリオンを見つめた。「いいえ、違うわ」彼女は答えた。
「あなたはもう〝ただのガリオン?ではないのよ」
いとこの言葉に現実を思い知らされたガリオンは思わずため息をついた。
「よろしければ、失礼させていただきますわ」アダーラが言った。「これからシラー王妃のもとへ行かなければなりませんの。何でもご気分がすぐれないとかいうことなんですけれど、わたしがそばにいた方が落着かれるそうなので」
「きみがそばにいれば誰だって心が落着くさ」ガリオンは思わずそう口走っていた。
彼女は愛情のこもった微笑を浮かべた。
「少なくともこれであなたも一縷の望みができたわけね」ポルおばさんは忙しく針を動かしながら言った。
アダーラはガリオンを見やった。「わたしのいとこ殿はそれほどお困りになってるわけではありませんわ、レディ?ポルガラ」彼女は二人に向かって身をかがめると、静かに部屋を出ていった。
ガリオンはしばらくあたりを歩きまわっていたかと思うと、椅子にどさりと腰をおろした。今日一日だけであまりにも多くのことが。かれは突然、世の中にたいして激しい憎しみを覚えた。
ポルおばさんはそんなかれを見ようともせず、針を動かし続けていた。
「何でそんなことをやってるんだよ」ガリオンはついにかんしゃくを起こした。「もうぼくはそんなもの着やしないのに」
「でも、ちゃんと繕っておかなくちゃいけないのよ」彼女は穏やかな声で答えた。
「ここには使用人がごまんといるのに、何でおばさんがそんなことまでしなくちゃいけないんだ」
「わたしは自分の手でやりたいのよ」
「そんなものどっかへやって、ぼくの話を聞いてくれよ」
彼女は繕いものを脇へ押しやると、かれの顔をじっとのぞきこんだ。「それでわたしに何を話されたいというのですか、陛下」
「ポルおばさん!」ガリオンはショックを受けたような声を出した。「おばさんまでそんな言いかたをするのは止めてくれ」
「それならわたしに命令しないことね」そう言いながら彼女は再びひざの上に繕いものを置いた。
ガリオンはしばらくぼう然と彼女の手元を見ていた。とたんにある疑問がわきあがった。
「でも本当に何でそんなことをしてるんだい」今度は純粋な好奇心からかれはたずねた。「たぶんもう誰もそんなもの着やしないんだろ。だとしたら時間のむだじゃないか婚嫁行業」
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