と考えたのも当然で

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と考えたのも当然で

でゆくエンマ号の非運を、航海士の手記が哀惜のおもいをこめて書き記している。アラート号に乗り組んでいる混血の邪教徒たちについては、恐怖に怯える筆致で、この世のものとは思えぬその凶悪性を見ただけで、皆殺しにするのを人間の義務と考えるのが当然の成り行きだと書き、海事審判所で残虐行為の責めに問われたことに、むしろ率直に驚きを示していた。それからエンマ号の乗組員は、捕獲した快速船に乗り移って、ヨハンセン二等航海士の指揮の下に、好奇心に駆られながらの前進をつづけた。そして、南緯四七度九分、西経一二六度四三分の海上に、巨大な石柱が聳《そび》え立つのを発見することになった。近づいてみると、泥土と沈澱物の混ざりあった海岸線がつらなるところに、巨大な石造物が海草に蔽われて立ち並んでいた。これこそ、地球の内部に秘められた恐怖が凝集して、実体となって現出したものに相違ないと思われた。たしかにそれは、有史以前の遠い昔に、暗黒の星から降下した邪悪の〈もの〉が築きあげ、いままた芸術家たちが夢のうちに見た死の都ル・リエーであったのだ。そこの緑色の泥土に蔽われた石窟には、クトゥルフとその眷属《けんぞく》が身を横たえている。そして、測り知れぬ宇宙の周期が経過したいま、彼らは強力な思考波を放射POLA 美白し始めた。それが感受性の鋭い人間の夢に沁み入って恐怖感を与え、狂信徒の群れには解放と復権を願う巡礼に出よと、強圧的に呼びかけつつある。これらの事実はもちろん、ヨハンセンの知るところでなかったが、彼もまたその直後にこの恐怖を目撃することになったのだ!
これはぼくの推測だが、彼らが実際に水面から聳え立つのを見たのは、偉大なるクトゥルフが埋葬されている石柱を頂く城砦の上層部だったのではあるまいか。その下層に広がっているはずの壮大な都の規模を思いやるだけで、ぼくはこのまま死ぬのがましと考えたくらいだった。ヨハンセンと部下の海員たちが、水を滴《したた》らせている太古の悪霊たちの居城を眺めて、宇宙的な壮麗さに驚歎し、なんら前提的な知識を持ちあわさぬことから、これはとうてい地球のものではない、およそ現実に存在する惑星のものではあり得ぬ、あろう。緑がかった石造物の信じられぬほどの巨大さと、彫刻をほどこした石柱の目くるめくばかりの高さに畏怖を感じて、そして同時に、そこに見られる巨人像の顔かたちが、アラート号の聖骨箱から見出した奇怪な偶像と、あまりにも似かよっているのに驚いた様子が、ヨハンセン航海士の恐怖に怯えた記述の一行ごとに現われていた。
ヨハンセンに未来派絵画の知識があったとは思えぬが、彼がこの石の都について語るところは、あの流派の画家たちが企図したものにきわめて類似していた。事実、手記の記述は個々の石造物を具体的に描いてみせるかわりに、その角度と面との桁はずれの広大さに驚嘆した模様に終始していた。地球人の観念とはあまりにもかけ離れ、偶像と象形文字の奇異な印象とあいまって、この世のものとは信じられなかったという。ぼくが角度と面についての記述をとりあげたのは、その部分を読んでいて、ウィルコックス青年の夢を思い出した睫毛液からだ。若い彫刻家は怖ろしい夢を説明するにあたって、そこに現われた線と形が全部狂っており、われわれの世界のものとは別個の、非ユークリッド幾何学的な球体と次元を連想させられたと語った。そのような学識を欠いた船員たちにしても、この奇怪な現実を前にしたときには、まったく同じ印象を受けたものと思われる。
ヨハンセンと部下の海員は、巨大都市の堤防に上陸した。堤防と見たのは巨石を積みあげた城壁であり、傾斜がきついうえに滑りがちなので、これを梯子《はしご》としてよじ登るのは人間の能力を上まわっていた。海底から浮かびあがった倒錯の島であるのを示す瘴気《しょうき》が立ち昇り、それが偏光性を持つのであろうか、天空にかかる太陽の形も歪んで見えた。足場にしている積石も輪郭があいまいで、凹状と見た個所が次の瞬間には凸状に変わり、ねじくれた悪意がそこにひそ
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