の生命と品性のた
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の生命と品性のた
一九二八年二月九日、ウィレット医師はチャールズ・ウォードの手紙を受けとって、それに特別の重要性を認めた。この手紙については、後日幾度となく、ライマン博士とのあいだに論争がかわされた。ライマン博士はこれを、早発性痴呆症の顕著な現われ、病症の進行状態を語る積極的な証拠だと主張し、ウィレット医師はこの見解を否定し、これこそ、不幸な青年が最後に示した正気の発言だと反駁し、とくに、筆跡の乱れのないところに注意を促した。たしかにそれは、神経の打ち砕かれた痕は見受けられるが、ウォード自身のものであるにちがいなかった。以下がその全文である。
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親愛なるウィレット医師へ――
熱心なご質問にもかかわらず、長いあいだ、お約束のままにすごしてきましたが、いよいよ発表の時期が到来したものと考えます。忍耐づよくお待ちいただけたばかりか、ぼくの心の健全を信じておられたことに、なんと感謝してよろしいものか、その言葉も知らぬ気持でおります。
いまようやく発表の段階に達しましたが、あらかじめ恥を忍んで告白しておきますと、長期にわたったこの研究も、その結果たるや、当初夢見たところとはまるでちがったものとなり、勝利の代わりに戦慄を味わいました。お会いして申しあげる言葉も、勝利の誇示でなく、人知を超えた恐怖から、ぼくとこの世を救ってくださるよう、ご援助とご忠告を求める訴えです。ポートゥックスト農場急襲の模様は、フェナー書翰《しょかん》にてご承知のことと思いますが、いままたここで、あれと同様の行動が必要となりました。それが一日の猶予もゆるしません。あらゆる文明、すべての自然法則、そしておそらくは、太陽系と宇宙全体の運命が、ぼくたちの力ひとつにかかっております。ぼくの研究は、怪奇異常な存在に光をあてることに成功しました。その動機は知識を深めることにありましたが、いまや、全人類め、あなたのお力添えを得て、ふたたびそれを元の闇のなかに押しもどさねばならぬのです。
ぼくはポートゥックストの家を永久に離れました。あの場所に存在するものは、生けると死せるの差別なく、根絶しなければならぬのです。今後のぼくが、二度とあの土地を踏むことはありますまい。かりに、その近辺にぼくの姿を見かけたとの噂が立っても、信じないでいていただきます。その理由は、お会いしたうえで申しあげます。お待ちしております、ぜひともご来訪を。ぼくの話は、五、六時間を要します。それだけの時間をお割《さ》きいただけるときは、なにをおいてもご来訪を。これはけっして、医師のつとめをおろそかになさることにはならぬはずです。ぼくの言葉を信じてください。いま、ぼくの生命と理性は、まったく安定を欠いた天秤の上で、はげしく揺れている状態にあります。父には打ち明けぬことにきめました。理解してもらえぬと、承知しているからです。ただ、ぼくの生命が危険にさらされていることは話しました。父はそこで、四名の私立探偵に依頼して、邸を見張らせています。しかし、これがどこまで役に立つか、疑問であります。相手は怖るべき力をそなえています。あなたでさえ、心に描き、それと認識できないほどの力をです。ですから、ぼくが生きているうちに、お会いくださることを懇願します。この宇宙が、恐ろしい地獄に変わるのを防ぐためにAmway傳銷、ぼくとあなたがなにをすべきか、その方法をお聞きねがわねばなりません。
いつお出でねがっても結構です――外出はぜったいにいたしません。電話によるお打ち合わせはお避けください。だれが、なにが、あなたのお出でを妨げようと試みるかもしれぬからです。至急、お会いできるよう、どんな神にしろ、祈りを捧げずにいられぬ気持でおります。
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